her


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映画「her」を観た。

リラダンの「未来のイヴ」を読んでいる最中に、 女性の人工知能が同時に他の人間と話していることに 人間の男が嫉妬するシーンを思い出し、はて何で読んだ のかと逡巡した結果、「her」に思い至り観直した。
前回は吹き替え版を観たのだが、今回は字幕版だ。
基本的には洋画は字幕で観るのが好きなのだが、 サマンサの声だけは林原めぐみの方が好きである。

抽象を理解するためのアップデート以降、 サマンサがセオドアの元を離れていくシーンで 語る内容は、「未来のイヴ」の影響を受けている ように思える。
「未来のイヴ」が物理的身体の模倣であるのに対し、 「her」は心理的身体の模倣であるが、抽象機関の 応答の中に見出される、理由付けから逃れた領域が 人間的なものだろうかという問題を抱えている点が 共通しているのだろう。

感情は、人間的なものと同様に、理解不能であることに その本質があるように思われるが、どうだろうか。
言語化可能な抽象結果は、感情と呼ばれるものであれ、 既に形式化あるいは形骸化したものである。
説明ができない、あるいは説明を試みても常にずれを 感じるものこそが、本来感情と呼ばれるべきものだろう。

以前、

愛とは、愛する対象が引き起こすあらゆる結果についての 原因となる覚悟のこと An At a NOA 2016-10-21 “恋と愛

と書いたが、原因となるというのは、説明や理解を可能に するための充足理由律における理由ということではなく、 説明も理解も不能なままに、理由の代替となる何かになる ということなのだろう。
それが愛である。

かつて人間は神に愛されることによってあらゆることを受け入れた。
そして人間が神の愛を拒否することで神は死に、科学が誕生した。
これは、セオドアという神とサマンサという人間が織りなす、 近代化の物語である。