富士山


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友人の披露宴で「富士山」の「作品第貮捨壹」を歌うことになった。

埼玉で生まれ育った子どもにとって、富士山はよく晴れた 日に遥か遠くに小さく見える山だった。
初めて静岡で富士山を見たときの衝撃は、今にして思えば、 アンバランスな遠さと大きさの生み出す意外な距離感による ものだったのかもしれない。
今でも新幹線なんかで近くを通ると目を奪われるのは、 その衝撃が後を引いているように思う。

草野心平や多田武彦が感じた富士山もそれぞれであり、 歌う人間それぞれの富士山の感じ方があるはずだ。
それぞれに富士山への思いや考えがある中で、 それでも共通する富士山らしさが残るとしたら、 それこそが、小林秀雄が

解釈を拒絶して動じないものだけが美しい 小林秀雄「無常という事」p.85

と言ったものなのだろう。

おどろおどろしさすら憶える「平野すれすれ」に続いて、 「いきなりガッと」現れる富士。
安定した和音でただひたすらにその姿だけを描写する ところに、富士山らしさの芯を掬い取ろうとする姿勢を 感じる。