経済問題と環境問題


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経済問題と環境問題は、いずれも人間がいかに住み続けるかに関するものであるが、対象とする時間的・空間的なスケールには隔たりがある。経済問題が、比較的短い期間や範囲を対象として、人間の活動をいかにやりくりするかを問うのに対し、環境問題は、比較的長い時代や領域を対象として、人間の活動によってもたらされるものの是非を問う。マクロ経済学をさらにマクロにしたものが環境学だとみることもできるだろう。

ミクロとマクロのギャップによる視点の違いによって、同じ現象にも正反対の意見が出てくる。そして現状では、どちらかと言えば個人の寿命や活動範囲に近い経済問題の方が喫緊の問題として優先され、二つの視点の上手い落とし所は今しばらく探られそうにない。顕微鏡には顕微鏡の、望遠鏡には望遠鏡の役目があるのだが、いずれか一方しか覗き込まないまま、顕微鏡と望遠鏡を覗いたもの同士が言い争う話があまりに多すぎるように思う。

ミクロとマクロのギャップは、人体を一つの単位とした個が確立された近代以降、急速に拡がったように思われる。それはもしかすると顕微鏡と望遠鏡が発達した16世紀後半から17世紀以降に符合すると言えるかもしれない。右目で顕微鏡を覗き、左目で望遠鏡を覗くようなガリレオ的観察は、一つに統一された状態をよしとする近代的個人にとってはダブルスタンダードでしかない。むしろ、経済問題と環境問題を別個のものとして語れることこそが、近代的個人のアイデンティティにすらなっているようにもみえる。

人間の寿命が延びたり、共産主義的に個の単位が大きくなったりすることで、ミクロとマクロのスケール差が狭まれば、経済問題と環境問題は再び接近するだろう。両者を一緒くたに論じることは、近代的個人を至上のものとする価値体系の枠組の中では難しいように思う。