協力と裏切りの生命進化史
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市橋伯一「協力と裏切りの生命進化史」を読んだ。
反射律、対称律、推移律によって特徴付けられる
同値関係が成立している状態を「協力」と呼べば、
この同値関係の解消のうち、特に対称律が破れる
ことによるものを「裏切り」と呼べるだろう。
分子、細菌、真核細胞、多細胞生物のように、
複数だったものが一つの単位として振る舞う
ようになるのは、同値関係によってある集合を
商集合へと写像する除算過程の一種である。
それは確かに「協力」の賜物であるが、ときに
「裏切り」が発生し、別の同値関係が可能に
なることで、同値関係の妥当性を検証しながら
環境に適応する協力体制を整えることができる。
一つの同値関係に固執すれば壊死する一方で、
同値関係の解消に徹すれば瓦解する。
ある同値関係を維持しようとする「協力」と、
その同値関係を解消しようとする「裏切り」の
綱引きが、絶妙にバランスするところにだけ、
生命を見出し得るのではないかと思う。