神話と数学


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神話という語を広辞苑で引くと、二番目の意味として、

②比喩的に、根拠もないのに、絶対的なものと信じられている事柄。
広辞苑 第六版

というものが載っており、元の意味の神話という語でも、 無根拠性が暗に含まれることが多いように思う。
そうなったのはいつからだろうか。

人間が行ってきた理由付けの共通部分である構造を 抽象したものが神話である。
だから、神話の内容そのものが実際にあったわけでは ないかもしれないが、元になることが全くなかった わけではないはずだ。
ことばになったことがらは、物語として読まれると、 ことばの固定的な面に引きずられるが、多くの物語を 抽象した神話として読むことで、固定的でない、 ことがらと同じような含みをもったことばとして 読まれることができる。
神話を個々の物語と同じ態度で読もうとするから、 その無根拠性が気になるのだと思われる。
そのような傾向が、経験科学が広まったことと関係が あるのだとしたら、経験科学自体もまた同じ問題を 擁していると考えられる。

数学というのは、経験科学におけるその問題を解消 するためのものだと言える。
個々の経験から抽象した構造について物語ることで、 固定的でない、含みをもった体系が可能になる。

数学は一種の神話である。
Math is a sort of myth.
この言葉が、数学なんて生きていく上でなんの役にも 立たないという意味で取られてしまうのであれば、 ここに書いた話は何も伝わらなかったということだ。