時がつくる建築


[tag: book]

加藤耕一「時がつくる建築」を読んだ。

建物に限らず、ほとんどのものは、多くの抽象作用が 重なり合ったものであり、その重なりは、抽象過程の 不可逆性によって刻まれた時の現れである。

複数の抽象過程の間での判断基準の差異や、個々の 抽象過程の判断基準の変化によって、自然と判断基準が 混淆した状態になっていく「再利用的」態度。

その自然な状態を野蛮とし、一つの判断基準による抽象を 前景化しようとする、ルネサンス的、近代システム的、 都市計画的、人工的、理性的な、「再開発的」態度。

判断基準の混淆を認めつつも、ある時点において判断を 下すことが、それ以上の判断基準の混淆を生み出さない ことにつながる「文化財的」態度。

建物に対する抽象作用には、専門家によるものも、一般人 によるものも、制度によるものも、風や地震によるものも 含めて様々なものがある。
より多くの判断基準が混じっていればよいわけではなく、 どの抽象作用をよしとするかという判断は避けられない。
その取捨選択によって建物が時を刻んでいくという一連の プロセスが建築なのだと思う。

「再利用的」は、近年の「シェア」的な建築の流行にも つながるが、いたずらに「再利用的」を称揚するのではなく、 「再利用的」「再開発的」「文化財的」の三つを等価に 評価していこうという提案がよかった。