坂田一男 捲土重来
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東京ステーションギャラリーで「坂田一男 捲土重来」を観てきた。
抽象絵画に物質感があるのはどういうことなんだろうか。構造を抜き出して表現するのであれば、絵の具やキャンバスの質感を拭い去り、シンプルな形の構成に徹するのではないか。そんなことを考えながら絵を眺めていた。
しかし、2階の展示室に降りてきて冠水の話を読んだとき、そのあたりのことが腑に落ちた。抽象絵画で涙が出たのは初めてのことだった。たしかに、一つの対象を、一つの空間と時間において、一つの観点から抽象するのであれば、シンプルな形の構成のみで表現することも可能かもしれない。そうではなく、さまざまな対象、空間、時間、観点を含む抽象を一つの絵で表現することを試みた結果、抽象は重なり合い、作品が物質感を帯びる。
すべてがシグナルなのではなく、多分にノイズを含んでいる。ある観点からのシグナルは、別の観点からすればノイズであり、その逆もまた然りだ。抽象の重なりによる雑多さ、わからなさ、複雑さというものが、つまりは物質感なのではないだろうか。まさに岡崎乾二郎が「抽象の力」で描いた抽象美術の方向性そのものが、本来的に物質感につながっている。